さくら

2年と少し付き合った恋人にとうとう別れを告げた。

人生で打ち込むようにがむしゃらに人を愛せるのは、きっと数十年の中の5年かそこらだと思う。その限りなく短い期間を彼と過ごすことが出来たのは私にとって紛れもない幸運であった。愛していた。


私は余りにも稚拙で傲慢な愛し方しかできなかった。泣いてばかりいた。

言葉が伝えられずに要求を通せずに泣く赤子と同じように、好意と執着をまともに表現できずに苦しみ抜いてしまった。

私か恋人のどちらかが、またどちらもがほんの少しずつでも大人になれればきっと今後も関係を紡げていたのだと思う。

少なくとも私は、最後までてんで幼いままであった。



こうも瓦解するまでにどうして彼を普通に愛してあげられなかったのか、信じてあげられなかったのか、また大切にしてやれなかったのか。

私は一体、どこから間違ってしまったのだろう。恐らく生まれた瞬間に何かしらは狂っていた。なんというか、世界の乱数調整のような人間なのだ私は。


全てを踏み外してからようやく口に出せるようになった尊さと愛とを、私は踏み潰してこの先を歩いていかないといけないのかもしれない。踏みたくもないそれらがいつまで私の足元を跋扈するのかは見当もつかないし途方もない。まるで地獄だ。

それにどうしても足をとられて動けなくなってしまったら、私は死ぬか死ぬ覚悟で彼を見つめ直さなければならないのだろう。


少なくともしばらくの間、ややもすれば最後にあったあの日を最後に、とにかく離れなければならない。

私たちはお互いに世間と常理を知らなすぎたのだ。お互いしか知らなかった。お互いしか知らなくていいと思っていた。

とにかく、それで構わないと思うくらいには盲目的だった。


私は私自身の性質をどうにか変えないとこの先誰とだって上手くいかないだろうし、早いところ人間への興味を失うべきである。

相手も自分も潰れてしまう、鉛の風船の様な恋はもう辞めないといけない。

彼との不仲が続き人生に絶望して入水したあの日の私は殺さなければいけない。

そういうところがいけなかった。


とにかく私は一度頭を冷やすべきであるし、彼も然りである。

その間に何が起こるかはわからないけれども口出しできない状況に自分をおかないと治らないだろうし。

願わくば彼がひょいと新しい恋愛を拾い上げてくれればいい。彼が幸せになれればいい。私なんかのことは待たなくたっていいのだ。でも、あんまり私が愛し尽くしてしまったから健常者の愛情表現では物足りないかもしれないね。幸せになってほしい。本音を言えば私と幸せになって欲しかったけれども。